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大阪地方裁判所 昭和30年(わ)2969号 判決 1957年4月15日

本籍

大阪市住吉区西住之江町五丁目十番地

住居

福岡市春吉新屋四百八十四番地の一

会社員

岡本孝一郎

昭和二年十二月二十八日生

本籍

大阪市東区東雲町三丁目二百三十番地

住居

大阪市生野区鶴橋南之町一丁目五、七七四番地

会社員

植田英彦

昭和四年五月八日生

本籍

愛媛県北宇和郡吉田町大字魚ノ棚五番地の一住居大阪市阿倍野区三明町一丁目七十七番地

会社員

菊地徹

昭和五年四月十九日生

右各威力業務妨害被告事件

検察官佐賀小里出席

主文

被告人等を各罰金三千円に処する。

右罰金を完納できないときは、金二百円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は、被告人等の負担とする。

理由

被告人等は、いずれも大阪市天王寺区大道四丁目七十一番地出版業株式会社新興出版社の社員であつて、被告人岡本孝一郎は、昭和二十九年八月同社従業員を以つて組織された新興出版社啓林館労働組合の副委員長、被告人菊地徹は、同組合執行委員、被告人植田英彦は、同組合員であつたが、同年十月三日右組合と会社との間に賃金体制の確立とユニオン・ショップの締結をめぐり労働争議が発生し被告人岡本孝一郎は最高戦術委員兼行動隊長を、被告人菊地徹、同植田英彦はいずれも斗争委員兼行動班長となつたのであるが、右新興出版社は印刷、製本のすべてを下請業者に請負わせているため争議中下請業者の手許で依然として印刷、製本がなされ会社に納入されたのでは到底争議の目的が達せられないところから右組合としては下請業者を以つて組織されている啓林会に対し、組合側に協力方を求めたけれども之を拒否されたので、個々の下請業者に対し作業の中止或は製品を組合側に引渡すことを求めるため組合員二、三名或は数名にて説得し廻つていたところ偶々同月二十三日昼頃被告人植田英彦外二、三名の組合員が右会社の下請業者光拓社より更に下請している同市天王寺区東上町四番地製本業池伝次郎方を説得に廻つた際同製本所に右会社の商品である小学校理科教科書の製本済のもの多数あるのを認めたので右製本を組合の保管に移すことを企図し、被告人等は、組合員十数名と共謀の上、同日午後七時頃右池伝次郎方に到り同人に対し右製本を組合側に引渡すことを求めたが同人が之を承諾せず、寧ろその搬出を阻止するため組合員を制止していたのに拘らず、被告人等は多数の威力を示して同人方工員沖栄三外十名位が製本作業中の板敷作業場に土足のまま入り同所に置いてあつた前記会社所有の小学理科教科書で製本済のもの約四千七百部を同人方より持去りよつて右池伝次郎の右教科書の管理、保管の業務を妨げると共に工員沖栄三等をして作業を一時中止するの止むなきに至らしめて以て威力を用いて右池伝次郎の業務を妨害したものである。

判示事実は

一、被告人等の当公廷に於ける供述

二、被告人岡本孝一郎の検察官に対する昭和二十九年十一月二十七日附及び同年十二月一日附各供述調書

三、被告人植田英彦の検察官に対する同年十一月二十六日附供述調書

四、被告人菊地徹の検察官に対する同年十一月二十九日附供述調書

五、証人池伝次郎、同山添鶴子、同厳島平吉、同沖栄三同道信幸宏、同国師秀一、同柴田伊彦等の当公廷に於ける各供述

六、清水好信の司法巡査に対する同年十月二十五日附供述調書

七、前田つる子の司法巡査に対する同月二十六日附供述調書

八、麻田一夫の司法巡査に対する同月二十五日附供述調書

九、黒田啓弘、田中祥文、岡田豊等の司法警察官に対す各供述調書

十、清水三一の司法警察官に対する同年十一月二十五日附供述調書

によつて之を認める。

仍て被告人等の判示所為に対し刑法第二百三十四条第二百三十三条第六十条罰金等臨時措置法第三条を適用し、所定刑中いずれも罰金刑を選択し、被告人等を各罰金三千円に処する。被告人等に於て右罰金を完納できないときは同法第十八条により金二百円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。訴訟費用は、刑事訴訟法第八十一条第一項により被告人等の負担とする。

(裁判官 細江秀雄)

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